■とあるウィジェ・エースパイロットの手記(3)






  「 AA0085.02.01 」

     クソッタレな一日だった

     防衛システムがフル稼働状態の無人基地へ放り込まれるとは
     なにが偵察だ、クソババアの言う事はどうにも信用出来ん

     しかし妙にウィジェの調子が良かった
     ・・・良すぎたぐらいだ

     トレーニングでは出来なかったあの感覚、一体・・・?





  「 AA0085.02.02 」

     定期健診で一日を費やした

     いや、健診という名ばかりの実験だ
     ・・・あの女医者にとってはいいサンプルだからな

     このまま進行すると、もって一年か二年と言っていたが

      "LUY" のアイツ等と再会する日も遠くはないか





  「 AA0085.02.04 」

     風神流のジジイがくたばりかけらしい

     まだくたばってなかったのが驚きだが
     ウィジェに乗らなくなって半年、いやそれ以上だろうか

     今更になって 「昔の借りを返せ」「娘の面倒を見ろ」
     ・・・ボケてんじゃねえのかあのジジイ

     どちらにせよ、クソババアが承認しない限りは無理な話だ





  「 AA0085.02.05 」

     クソババア

     地獄に落ちろ





  「 AA0085.02.07 」

     Ship9 "Midgard" に来ている
     懐かしい街の臭いだ

     そういや、ジジイの娘以外にガキがもう一人居やがった
     名前を忘れたが・・・ウィジェ乗り志望の新人だとか

     ここでは偽りの名とランクで通してはいるが

     俺の正体を知られるのも時間の問題だろう





  「 AA0085.02.08 」

     確か、レナ・・・だったか
     ジジイの娘なだけはある、よく似ている

     模擬戦用ウィジェで少し遊んでやったが
     親子にしては動きがカタい上にテクも未熟だ

     まさか、教えてやってないのか・・・?





  「 AA0085.02.09 」

     Ship10 "Gimle" の訓練施設で新兵のガキと実機戦闘

     射撃どころか、回避もままならない
     あれで試験を合格したらしいが・・・とても信じられん

     帰り道にガタいの良い野郎から呼び止められた
     俺の動きを知っている奴が見ていたとはな

      "The Poker" の "ガレン" と名乗っていたか

     交流戦を申し込んできたが、
     本命はチームへの勧誘といったところだろう

     まぁ、暇潰しには丁度良い





  「 AA0085.02.10 」

     懐かしい代物があった

     ウィジェの搭乗者になって戦う帝国製の端末ゲームだ
      "LUY" の時に、立ち回りのイメージを掴む為に世話になった

     しかし所詮、ゲームはゲーム
     実戦とはワケが違う

     ・・・まぁ、ガキどもを教育しろとは言われていない

     俺は見ているだけでいいだろう





  「 AA0085.02.11 」

     換装するだけで強くなれる魔法のパーツ、か

     アリュクトス社のオートバランスシステム
     キリムラ重工の予測射撃機能

     搭乗者をサポートする程度では、強くなれるとは言うまい

     ウィジェの "三大名装" は魔法を超えた代物だが
     アレは使用者が選ばれる、新兵が使っても強くはならない

     仮に、そんな魔法のパーツがあるとしたら

     帝国はすでにA.U.Gと武力衝突しているだろう





  「 AA0085.02.13 」

     このガキどもは仲が良いのか悪いのか解らん

     明日は "The Poker" との交流試合
     連絡によると、プライベート用の訓練施設を押さえたようだ

     ・・・こちらの意図は、理解しているか





  「 AA0085.02.14 」

     リーダー自らが手合わせをするものかと思っていたが

      "右手" "左手" と実機戦闘をやることになるとは

     姉妹なだけあって、連携のタイミングは悪くない
     だが、どちらも "格下" との戦闘に慣れてしまっている

     そこそこウィジェを乗れるようになってきた者は
     自分より格上の相手とやらねば慣れが染み付いてしまう

     この慣れこそが成長を停滞させる大きな原因の一つだ





  「 AA0085.02.16 」

     ロクなメシが出てこないので出前を取った

     金が無いから節約生活というのは理解できるが
     いくらなんでも、メシがモヤシのみってのはおかしいだろう

     ついでに俺のウィジェパーツを少し譲渡してやった

     これ位で問題事が減るのであれば、安いモンだ





  「 AA0085.02.18 」

     リサとかいうのが道場に押しかけてきやがった

     先日、交流試合を行った "The Poker" の姉妹の片割れらしい
     用件は俺への弟子入りとか言っていたが・・・

     お断りだ

     これ以上、子守が増えるのは勘弁なんでな





  「 AA0085.02.19 」

     リサとかいうのが住み込むことになった

     ジジイの娘が金で承諾しやがった

     どうしてこう面倒くせェ事が続くのか
     まるで理解出来ん

     まあ、こちらが相手にしなければいい・・・それだけだ





  「 AA0085.02.21 」

      "The Poker" のリーダー、ガレンが訪ねてきた

     リサを連れ戻しに来たとか言っていたが、
     いつの間にか俺が奴と交渉をする破目になっていた

     仕方がない、仕方がなかった..

     ガキ二匹の子守から解放されたと思えはマシか


       ・・・いいや納得いかねえぞクソったれめ





  「 AA0085.02.23 」

     ウィジェ三大名装の一つ "魔銃" こと "WGXO-BlackDog"

     アリュクトス社の傑作銃と言われ贋物も多く出回っているが
     どういう経路でこの "本物" を入手したのだろうか

     コイツは使い手を見定めやがるのが一番の難点だ

     丁度いい機会でもある

     俺の "魔銃" もたまには出してやるか





  「 AA0085.02.24 」

     Ship10 "Gimle" の訓練施設に今日から二泊三日

      "Midgard" からの移動時間が惜しい上に
     実機を使ってやった方が良い特訓になるだけだが

     ・・・このリサとやらは何を勘違いしていたんだ?

     リサのウィジェのカスタマイズチューンは中々良い
     元アリュクトスの整備人が手入れしているだけのことはある

     問題は、やはり乗り手ではあるが..





  「 AA0085.02.25 」

     リサは疲労が溜まっていたのかベッドで横になっている

     まあ、無理もない
     火力支援が担当だった奴に高速戦闘をさせるのは少々酷だ

     だが強くなりたければ乗り越えるしかない
     出来ないことは出来るようになれば良いだけのことだ

     全ての経験は知識にも、技術にも繋がるのだから





  「 AA0085.02.26 」

     風神の道場へ戻って来ている

     俺の動きには大分付いてこれている
     が、どうにも被弾に恐れを感じている節がある

     一瞬でも目を瞑るのは自殺行為に等しい

      さて、どう克服させてやるものか..





  「 AA0085.02.27 」

     空間認識能力の特訓、一日目

     目隠しをさせて恐怖心も同時に克服させるつもりだったが
     そう上手くはいかないものだ

     性悪女が仕事のついでだとか言ってきやがった
     何か様子がおかしかった気がするが、気のせいだろう

     俺も寝るとしよう





  「 AA0085.02.28 」

     空間認識能力の特訓、二日目

     昨日よりかは感覚を掴んできている

     攻守の切り替えと対応にまだ難があるが、
     こればかりは実戦で経験させるしかないだろう

       Ship10 "Valhalla" に裏アリーナがあるが..





  「 AA0085.03.02 」

     リサは、どうやら "魔銃" に認められた一人のようだ

     一週間でよくここまで成長した

     LUY時代の、下の連中と比較しても驚く程のペースだ
     今のコイツなら、前線に加えても申し分無いだろう

     特訓に加え、掃除炊事と家事をよくこなす
     メシは確かに美味い・・・出前なんかと比べ物にもならない

      あのクソ性悪女とはえらい違いだ、少しは見習うべきだな








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